その男は|渡邊有一                                  

「妻子や仕事より、私を相手にして欲しい。私を愛して欲しい。教えて欲しい。」その男はそう言って近寄ってきた。

それまで会った事も話した事もなかったその男は、そう言ってずいぶん長い間離れなくなっている。

気持ちの悪い男だ。

年の頃はもう老年だろうか。私の胸にすがり、両手のこぶしの小指側で私の胸を叩きながら「君のせいだ!君のせいだ!」と言いながら泣きじゃくっている。

気持ちの悪い男だ。

渡邊有一