フェアレディZの下敷きに!?
これは私がまだ10代の頃、実際に起きた出来事だ。アキラと呼ばれる遊び仲間の先輩と一緒に、溶接関係の仕事をしていた時の事。私が16歳、彼は18歳の時だった。
当時、彼の乗っていた車はフェアレディZの車高短(シャコタン)で、車のボディと地面との間隔はわずか数cm位しかなかった。
ある日、仕事終わりに2人でそのフェアレディZに乗り走っていると、急に車の不具合が出たので、路上に止めて車の整備をする事になった。
彼は多分タイヤを何かに乗せてシャコタンのボディと地面の間隔を作り、手動でくるくると回す車載ジャッキで車を持ち上げたのだと思う。ジャッキアップをしてから車体の下に入って行った。車体のやや後部の方だったので、マフラーが段差にぶつかり何らかの不具合が出たのかも知れない。
ジャッキ側に立っていた私はふとジャッキをかけた地面に目をやった。
何とその地面はアスファルトやコンクリートではなく、土と砂利が混じった地面だったのだ。しかも少し湿気っているではないか!
さらによく目をこらして見てみると、わずかにジャッキが地面にめり込み、内側に傾いている事に気づいたのだ!!
とっさに車体の下で作業をしている彼に叫んだ。
「アキラくん!大変です。このジャッキは今にも倒れそうです。早く出てください!」
しかし彼はすぐに車の下から出ようとはしなかった。
「大丈夫だよ!そんな事心配するなよ!」
威勢よく、そう言い返したのだった。
しかし一刻の猶予もないと感じた私は再び、車体から出る事を促した。
「ジャッキが土にめりこんで、もうすぐ倒れます!早く!」
彼はようやく車体から出てくる事にした。
「どれ?」
2人で土にめり込んだジャッキを眺めてから数秒後···
「ガターンッ!!」
土にめり込んでいったジャッキは真横に倒れてしまい、凄ましい音と共に重量1.5t以上あるフェアレディZの車体は落ちてしまったのだった。そのまま車体の下にいれば···彼の命は途絶えてしまった可能性が高かっただろう。
2人は息を飲んだ。しばらくすると彼は言った。
「危なかったな…」
命の恩人となってしまった私は黙ってうなずいた。
すんでのところで、彼は急死に一生を得たのだった。